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Tenmyo Ironware / 天明鋳物

1000年続く鋳物に、新しい売り場をつくる

佐野の伝統工芸・天明鋳物は、技術も職人も残っている一方で、売る場所が細っていました。私たちはレンタルWebアプリ「天明浪漫Plus」を企画・開発し、器を「買う」前に「借りて使ってみる」導線をつくりました。あわせて商品企画、印刷物、ECまで一貫して設計しています。

「天明浪漫Plus」のトップ画面
React + ViteFirebaseSendGridEC / 販路開拓商品企画印刷設計
担当範囲
企画・設計・実装・運用・販促物制作
技術構成
React + Vite / Firebase / SendGrid

課題(伝統産業側)

天明鋳物は平安時代から続く、佐野を代表する伝統工芸です。砂型鋳造でしか出せない独特の肌合いと重量感、経年変化で味が深まる金物としての魅力は、1000年前と変わらず職人の手に残っています。しかし、それを届ける「売り場」は、この20年で急速に細っていきました。

百貨店の物産展や地元の民芸店といった従来の販売網は縮小し、卸中心のビジネスモデルは限界に近づいていました。工房側は「つくる技術」は磨き続けてきたものの、「誰に、どう届けるか」を単独で組み立てる余力はありません。特に、これまで接点のなかった若い世代や首都圏の生活者へのアプローチは、片手間ではできない領域でした。

ECを試みる工房もありましたが、単価が数千円〜数万円という価格帯の商品は、写真だけでは重量感も質感も伝わりません。カート落ちが多発し、「オンラインは合わない」という結論に至るケースが繰り返されていました。技術が残っているうちに、新しい売り方の型を確立する必要がありました。

売り場を失いつつある伝統産業の状況を表す図

課題(購入者側)

購入者の側にも、明確なハードルがありました。数千円から数万円の鋳物を、実物を手に取らずに買うのは大きな決断です。「良いのは分かるが、自分の食卓に合うか分からない」「重すぎて日常で使えるか不安」「贈答用に選びたいが、相手が本当に使ってくれるか読めない」——こうした声が、購入検討層に共通して存在していました。

触れれば分かる価値ほど、写真とテキストでは伝わりません。伝統工芸品は特に、実物との出会いが購入意思決定に直結します。しかし「実物を触るために現地に行く」あるいは「触るためだけに買う」という選択肢は、多くの人にとって現実的ではありませんでした。

結果として、興味を持った人の大半が「気になるが、まだ買えない」という状態で止まっていました。ブランドの好意度は高いのに購入率が伸びない、という購買ファネル上の断絶が、両者の課題を象徴していました。

購入前に触れられない不安を表す図

私たちがしたこと

「購入」の前段に「レンタル」を挟むWebアプリを、企画から実装まで一貫して手がけました。それが「天明浪漫Plus」です。カレンダーで在庫と貸出期間を管理し、複数枚の高解像度画像で肌合いや重量感を伝え、問い合わせから発送・返却までをオンラインで完結できるようにしました。使ってみて気に入ったら、そのまま購入に進める導線もアプリ内に組み込んでいます。

設計にあたっては、単に「レンタル機能をつくる」ことよりも、購入者の心理的なハードルをどこで下げるかを重視しました。写真のトーン、注文フローの言葉遣い、返却時の手順書のわかりやすさ——鋳物という商材に特有の「触れる前の不安」を、細部で解消するよう組み立てています。返却時の梱包キットは工房と一緒に設計し、破損リスクを最小化しました。

あわせて、印刷物・商品ページ・SNS運用まで含めた販路開拓を、工房と並走して進めました。特に「若冲コラボのカプセルトイ」という500円の入口商品は、鋳物というジャンルに初めて触れる人の裾野を広げる装置として機能しています。500円で触れる→レンタルで暮らしに置いてみる→気に入って購入する、という段階的な階段を、価格・体験・情報の3層で用意した形です。

運用フェーズも自社で担っています。問い合わせ対応、発送手配、商品追加時の撮影・ページ作成、シーズナルなキャンペーン設計まで、外注に切り出さず現場に立ち続けることで、次の打ち手を工房と一緒に決められる関係を維持しています。

「天明浪漫Plus」のトップページ

成果

これまで工房に届いていなかった顧客層——首都圏の30〜40代、贈答用途の検討者、飲食店・宿の意思決定者——からの問い合わせが継続的に入るようになりました。レンタル利用者からの購入転換も一定率で発生し、「触れてから買う」という購買体験が実際に機能することを、数字で示せる状態になっています。

カプセルトイ商品は美術館の物販に新しい単価帯を持ち込み、鋳物と縁の薄かった来館者層——若い世代、子連れファミリー——にリーチできる商品として稼働しています。ここで初めて鋳物に触れた人が、後日レンタルや購入に進む導線も観測されており、価格帯の異なる商品が相互に流入を生む構造ができつつあります。

工房側にとっても、「つくる」以外の領域を一緒に組み立てられるパートナーがいる、という状態そのものが変化でした。次年度の生産計画や新商品の企画で「これは売れる場所があるか」を先に議論できるようになり、技術と販路の両輪で長期的な展望を描けるようになっています。天明鋳物というブランドを、次の1000年に持ち越すための足場が、少しずつ整い始めています。

「天明浪漫Plus」の作品ギャラリー(新しい売り場)

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