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現場が続けられる、館内コミュニケーション基盤
館内のシフト管理・休暇申請・備品購入依頼・在庫・引き継ぎメモ・来館者カウント。ホワイトボードと付箋に散っていた業務情報を、館内スタッフが迷わず使える機能セットにまとめ、リアルタイム同期で共有します。地方の中小美術館でも運用が続く前提で設計しました。
- 対象
- 地方美術館の運営スタッフ(正職員・非常勤・ボランティア)
- 技術構成
- React / Supabase Realtime
- 担当範囲
- 要件定義・UI設計・実装・現場ヒアリング
- 設計方針
- 機能を増やさない / 一目で操作できる / 現場観察に基づく仕様策定
課題(美術館運営側)
地方の中小美術館は、少人数体制で日々の運営を回しています。シフトの調整、備品の購入依頼、在庫の把握、来館者数の集計、次の担当者への引き継ぎ——ひとつひとつは小さな業務ですが、これらが複数のホワイトボード、付箋、Excelファイル、口頭連絡に分散していました。
情報が「その場所にしか無い」状態が、いくつも問題を生みます。休みの日には状況を確認できず、翌日出勤して初めて備品切れや来館者トラブルの経緯を知る。パート・ボランティアが多い現場では、勤務日が飛ぶ人ほど情報から取り残されていきます。運営責任者にとっては、館全体の状況を把握するために毎日館内を歩き回る必要がありました。
打開策として業務システムの導入も検討されましたが、機能過多で操作が複雑なプロダクトは、多様な世代のスタッフが混在する現場になじみません。「導入したが誰も使わなくなり、結局ホワイトボードに戻った」という前例が、館側にも警戒感として残っていました。
課題(現場スタッフ側)
現場スタッフの構成は、正職員・非常勤・シルバー人材・週末ボランティアと幅広く、ITリテラシーも一様ではありません。「新しいツールを覚える」こと自体がハードルになる層が一定数存在し、複数タブや複雑なメニュー構造を持つシステムは、開いた瞬間に敬遠されてしまいます。
一方で、日々の業務には確実に困りごとがありました。引き継ぎ用の付箋は剥がれて紛失する。備品の購入依頼を口頭で伝えたつもりが忘れられる。来館者カウントは手動カウンターで押し間違えても取り消せない。1件1件は小さくても、月末や年度末に集計するときに数字が合わず、責任者が過去の日報を突き合わせる作業が発生していました。
また、館内のスタッフルームは狭く、常時パソコンを開いていられる環境ではありません。ロビーや展示室から自分のスマホで数タップで済むものでないと、業務の流れに乗りません。「使えるかどうか」ではなく「使い続けられるかどうか」が、現場側にとっての本当の判断基準でした。
私たちがしたこと
設計方針として最初に決めたのは「機能を増やさない」ことでした。日々の運営に不可欠なもの——シフト管理、休暇申請、備品購入依頼、在庫、引き継ぎメモ、来館者カウント——のみをスコープとし、それぞれ画面を跨がずに1〜2タップで完了する形に落とし込みました。ログイン後のホーム画面は、これらのタイルが並ぶだけの構成です。
シフト管理は月次カレンダー上に各スタッフの勤務予定と実績を並べ、責任者が一目で欠員の有無を把握できるようにしました。休暇申請はスタッフがスマホから日付と理由を入力するだけで責任者に通知が飛び、承認後は自動的にシフト表に反映されます。従来ホワイトボードの上書きと紙の申請書に分かれていた業務を、ひとつの流れとしてつなげています。
各機能の仕様は、実際に館内に入って半日以上観察したうえで決めています。来館者カウンターは、押し間違いを直近5秒以内なら1タップで取り消せる二段階入力にしました。引き継ぎメモは書き足すたびに時刻とスタッフ名が自動で残り、朝礼の代わりに全員が同じ情報を持てるようになっています。備品購入依頼は、写真1枚と一言を添えるだけで担当者に届く仕組みにしました。
技術面ではSupabase Realtimeを採用し、誰かが情報を更新した瞬間に、館内の別端末や、休みで自宅にいるスタッフのスマホにも即座に反映される構成にしました。シンクロが遅れないことが、「1箇所で見れば全部わかる」という体感を実現しています。認証はメールアドレスとPINだけで済むようにし、シニア世代のスタッフでもストレスなくログインできる形にしました。
導入後の運用でも、機能追加の要望が現場から上がるたび、まず「本当に必要か」「既存の機能で代替できないか」を一緒に議論する場を持ち続けています。「機能を増やさない」という方針を、開発チームだけでなく現場と共有して守り続けることが、このプロダクトが継続する条件だと考えています。
成果
「休みの日に館内の状況が分からない」問題が解消され、責任者は自宅からでも直近の来館者数、引き継ぎメモ、備品状況を確認できるようになりました。翌日の出勤時に慌てて情報を集める必要がなくなり、朝礼で共有していた事務連絡もチャットベースの引き継ぎメモに置き換わっています。
来館者カウントは自動で日次・月次集計に流れ込み、月末の集計作業がほぼ不要になりました。過去データが一元化されたことで、季節ごとの来館傾向や企画展の効果測定も、これまでより早く粒度細かく議論できるようになっています。
導入から時間が経つにつれ、現場スタッフ自身から「こういう機能があると助かる」という要望が上がるようになりました。ツールが「与えられたもの」ではなく「自分たちが育てているもの」として受け入れられている兆しです。次のフェーズでは、これらの声を吸い上げつつ、他の中小美術館にも横展開できる形へと発展させていく予定です。